欧米では昔からタクシーは贅沢なものだとの一般認識がある。だから日本に來て学生なんかが平気で日常的にタクシーを利用するのを見て驚く人が多い。昔もそうだったらしい。昭和の初期に外交官夫人として来日し東京で暮らしたキャサリン・サムソムはとても印象深い観察記を残しているが(『東京に暮らす』(岩波文庫))その中でもタクシーについて触れている。ちょっと引用:
「日本では、外国と違って、金持ちと貧乏人の間にはあまり差がないことが多いのですが、生活スタイルもそうです。日本の金持ちは競馬、狩猟、ヨット、猛獣狩りをしないし、広大な屋敷などにお金を遣うこともなく質素に暮らしています。もちろん貧乏人よりは贅沢な暮らしをしていますが、買うものや、することの違いは質と言うより量です。たとえば、金持ちは素敵な自家用車をもっていますが、貧乏人は、イギリス人とは違い、よくタクシーに乗ります。このように、日本人の生活水準は、金銭上は低くても、もっと収入が高い人々の特権を含んでいます。タクシーは非常にたくさん走っているので、小売店と同じで、採算が合うのか不思議です。(中略)ガソリンがとても安いので、料金も非常に安くなっています。仲間で日帰りで郊外に出かけることがあります。80キロ離れた富士山まで(タクシーで)日帰りドライブすることもあります」
思うに、欧米ではタクシーとは高価な馬車の延長線上にあるものなのに対し、日本ではタクシーは安価な駕籠や人力車の延長線上にあるものだったからか。また稼いだものはぱあっと使ってしまうという江戸っ子気質も影響していたのかも。でも、こういう消費態度の違いが彼我の社会資本の蓄積の差となって現れているとすれば、ちょっと問題かも知れない。
最近東京のタクシーの売り上げがドラスティックに落ちているらしい。不景気になって、東京の消費者の行動が少し「質実剛健化」したと考えれば良いことである。「無駄遣い」は何も政府の専売特許ではないのである。でも、地方ではそれほどタクシーの売上が落ちていない。昔は歩いたものだが、地方は言われているほど不景気ではないのだろう。
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